仮想冥界 出張所

6 後日譚
 一週間後。
 仙台での用事を終えた清隆たちは、再び千草県の山根村に戻ってきていた。
 幻灯機を破壊したため、祐介たちも幻術から解放されているという事は分かっていたが、何となく様子を見ておきたかったのである。
 
「ここで祐介君にあったんだ」
 清隆は地蔵の並ぶ通りにさしかかったとき、アリウスとアブドルにそう説明した。
 
「……清隆さん?」
 
 そのとき後ろから聞こえたのは、聞き覚えのある声だ。
 振り返ると、祐介が前と同じように、花を持ってきたところだった。
「やあ、久しぶりだね。ああ、こちらは一緒に旅行しているアリウスと使用人のアブドル」
「はじめまして」
 アリウスがにっこり笑って挨拶したが、異国人になれていない祐介はちょっと緊張しているようだった。
「ど、どうも……そういえば、どうしてまたここに?」
「いや、旅行中に偶然近くを通ったからね。どうしてるかなって思って寄ったんだ。出るときお父上と喧嘩してたしね……」
 清隆がそう言うと、祐介はああ……と恥ずかしそうな顔をする。
「あのときはすいません、恥ずかしいところを見せてしまって」
「いや、気にしてないよ。仲直りできたんだろう?」
 清隆の質問に、祐介ははい、と明るく答えた。
「ちゃんと学校にも行ってます。東京の学校に行って、あとのき見たような幻灯機を作れるよう、勉強したいんです」
「そうか。それはよかった」
 清隆たちはそのあと、たわいもない雑談をした後、祐介に別れを告げて村を離れた。
 祐介は清隆たちが見えなくなるまで、長い間手を振って客人たちを見送っているのであった。
 
「祐介君、元気そうでよかったね」
 アリウスがつぶやいた。
「ああ……」
 清隆はそれ以上なにも言わなかった。
 おそらくもう彼に会うこともないだろう。今回偶然知り合った二人であるが、元々住む世界が違いすぎる。
 長い間生きている二人は、こうした出会いと別れはごくふつうのことだった。それでもやはり、人との別れは寂しい……
 
 三人は黙ったまま、次の目的に向かって歩き続けていた。
 
 それから数年後、活動写真が普及し、幻灯機はほとんど見られなくなった。
 成長した祐介は活動写真の作品を東京で作るようになり、当時有名な映画監督となったらしい。清隆たちも、日本にきたときに何度か映画館で彼の作品を見ることがあった。しかしそれが当時の祐介であることは結構最近まで気づかなかったという。
 
 なんて事はない、しかし不思議な出会いの物語。
 
(終)

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